蛇行    中嶋憲武

• 台風の北上するに血の乱れ
• 稲妻やセットのやうな洋食店
• 歩いてゆけば霧の円柱もうごく
• メキシコの日時計鹿を呼ぶならはし
• 町の名は夜光チョークの描く秋思
• 流星私鉄蛇行して慎む憂さ
• 宵闇の京マチ子背中より荒れて
• 月白ののりしろのろしのやうな指で
• レモン一滴自転車の往く向ふ岸
• 卒塔婆持つ姪はイヌサフラン愛でて

放送    山岸由佳

• 門濡れて芙蓉の花の玉となり
• 見つめられ飛ばない飛蝗あかるみに
• 秋彼岸ふたりで運ぶ桐箪笥
• 土の香のこゑわらわらと曼珠沙華
• 鴉呼んでも秋冷の土咥へ
• つまづいて微笑むをんな臭木の実
• 水澄んで放送の樹の揺れなさい
• いなびかり一語を黒く塗り潰す
• 葡萄一粒肉声のやう濡るる指
• 野分あと暮れない空の残りけり